JAN HOET

ヤン・フートは1975年、ベルギーにあるゲント市現代美術館のキュレーターに就任した。彼のキュレーターとしての信条は、その幼少期〜思春期における特殊な環境から育まれている。

彼の父親は精神科医であり、精神病患者をひじょうに大切に扱ったという。精神病患者に対する狂人という言葉を嫌ったばかりでなく、病院に隔離したわけでもなく、彼の父親は、いくつかの家庭を選んで精神病患者を送り込み、普通の人々と生活をさせるという方法をとっていたのである。
そして、フートが暮らした家庭においても、7人兄弟と両親に加えて、5人の精神病患者が共に暮らしていた。フートはこれらの人々と寝食を共にし、感性を研ぎ澄まし、彼らの声に耳を傾けながら育ったのである。
  
このような経験からフートは1989年に精神病患者の作品を含んだ『オープン・マインド』展を開催するに至る。フートは1991年8月号の美術手帖においてインタビューを受け、『オープン・マインド』展を通して以下のように語っている。

“美術も含めて神秘にみえる事物に対してつねに心を開いた状態に保つことだと、確信しています。とりわけ現代美術はいつも新しい潮流をもたらすものですから、心を閉ざしていてはならないと思っています。…そして私は、この展覧会を通じて、社会に対して攻撃的に振舞えるのは唯一美術のみであり、精神病患者の作品では決してないということに気付きました。”